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近代学問における歴史研究の意義−政治史、経済史、科学史、そして教育史−


  日 時:10月7日(土) 14時10分〜17時30分(予定)
  場 所:岡山大学教育学部 講義棟 5202講義室
      〔報告者〕
        小田川大典(岡山大学、政治史)
        山本 千映(大阪大学、経済史)
        金  凡性(広島工業大学、科学史)
      〔指定討論者〕
        柏木  敦(大阪市立大学、教育史)
      〔司会者〕
        渡邊 隆信(神戸大学、教育史)
        尾上 雅信(岡山大学、教育史)


趣 旨
 教育はいまそこで、動いている。 政治も経済も科学も、いまそこで動き、私たちの目の前にある。教育学も政治学も経済学も科学も、動き、変わる現場をもつ学問である。 そして私たちは、その変動する現場を対象とする諸学問のなかでも歴史研究という世界に住している。

 教育学においてなぜ歴史研究は必要か。 本シンポジウムでは、この問題関心を教育史研究者による教育史研究者のための議論のうちにとどめず、諸学問における歴史研究者との対話へと開き、教育史研究の意義を再考するための手がかりを得る機会としたい。

 教育史研究の意義について、かつて上原専禄が「何故に教育史の研究が行われるのであろうか、ということを一般化しますと、歴史研究は何のためになされるのかという問題になるようですが、その歴史研究は何のためになされるかという問題の一部分として、教育史研究は何のために行われるのかという問題があるのか、それともそのような関連ではなくて、歴史研究一般では何のために行われているかわからないけれども、教育史の方ではこのような意味において教育史の研究が行われなければならないと意識されているというのか。 その辺が私には問題になってくるのであります」と語り、つぎのように指摘していた。

 というのは、なるほど経済史の研究がある、政治史、文学史の研究があり教育史の研究がある。こういう工合に並べてみると、それは歴史研究一般の部分研究のように見えるけれども、果たして教育史研究というものは、経済史研究や政治史研究が、歴史研究一般の中での部分研究、あるいは領域研究を意味しているというのと同じような意味で教育史研究というものが行われるのだと、こういえるのかどうか。むしろ教育史研究の意味は、経済史研究だとか、あるいは政治史研究の意味とは違うというように意識しなければならない面があるのではないか。

 1957年、本学会第1回大会での「特別発表」(歴史の研究法について)においてである(『日本の教育史学』第1集、1958年、pp.263-264、復刻版)。

 それから時はめぐり、60年、本大会は第61回大会となる。 上原による教育史研究への期待ないし問題提起は、私たちにおいてどのように覚え直されるか。 私たちはそれにどれだけ応え得ているか。

 この問いに応えようと本シンポジウムでは、とくに諸学問における歴史研究との交差を通じ、その再考の手がかりを得たいと考えている。

 教育学はいわゆる近代社会における必要の学として発達してきた学問のひとつである。同じく政治学、経済学、科学も、近代社会に必要な学として発展してきた学問である。ここではとくに近代学問の性格を帯びる領域として、政治学、経済学、科学、そして教育学を取り上げ、それぞれの学問において、歴史研究がどのような意義をもつことが期待されているか、三学問領域の研究者から報告いただき、それに対して教育史研究の立場からのコメントをいただくことを試みたい。

 むろん、それぞれの学問はその成立背景をまったく同じにするものでない。単純に近代学問としてひとくくりできない側面ももつ。 しかし、それぞれの学問は、純粋に原理の探究のうちに作業を閉じて役割を果たすだけでなく、冒頭で述べたような社会に存する現場に資することが、大なり小なり求められるところがある点で、同じ地点を有するといえる。 社会的な有用性からみた評価とまったく無縁ではありえないところに、私たちは同じく立っているのだとも、換言できるだろう。 そして、それぞれの学問のなかに位置を得て、私たちは歴史研究を進めてきている。

 政治学における政治史、経済学における経済史、科学における科学史、そして教育学における教育史。 これらの学問におけるそれぞれの歴史研究が、(1)その学問のなかでどのような位置にあり、どのようなアカデミックな意義を有するのか(学問的意義)、(2)また、その歴史研究はどのように社会に貢献し、社会的な有用性を保持するのか/しないのか(社会的意義)、(3)そして、私たちは大学等でそれを教える者であるのだが、その歴史研究は大学等で教えられる領域としてどのような性格をもつのか(教育的意義)などを主な論点として、意見を交わすことができればと望むものである。それぞれの歴史研究の意義や役割を突きあわせてみると、どのような共通点や相違点がみえてくるのか。歴史研究の交差的関係から拓かれる研究テーマの発展の可能性はないだろうか。 議論はおそらくオープンエンドに終わることとなるが、異なる学問領域における歴史研究の意義やそれを専門領域とする者の立場などを知り、情報交換できる場としたい。