最新の研究成果を直接一般の方へ

1) 記憶研究者が主導して開発した学習ソフト

マイクロステップ技術とは
マイクロステップ技術は、実験系認知心理学と教育工学をベースに、学習効果を厳密に測定する心理学の新しい実験計画法と、それをコンピューター等に実装するための新しい測定技術です。その中核となる【スケジューリング技術】は、世界的にもこれまでにない、全く新しい日本発の技術です。科学研究費補助金など、数千万円を超える助成を国から受け、10年来の基礎研究を経てようやく実用レベルに上がってきた技術です。

任天堂DS用ソフト「THE マイクロステップ技術で覚える英単語」
「THE マイクロステップ技術で覚える英単語」は、それら学術研究の成果を速やかに社会に還元することを意図し、【研究者主導】で開発されたソフトです。一般に市販されている学習ソフトとは、確実に一線を画す、これまでにない新しい機能が導入されています。最新の学術研究の成果がこれほど早く、一般の商品として市販されたのは、発売元のD3Publisher(D3P)さんのご理解と、D3Pさんへの(株)リクルートさんの橋渡しがあったからです(
Q&Aを参照してください)。
なお、このソフトの開発費は全て発売元の(株)ディースリーパブリッシャーさんが負担しています。国から助成を受けた研究費は、紙媒体のドリル、WEBと携帯電話でのE-learningのシステム構築に利用しています(こちらが研究のメインです)。また、学習院大学の太田信夫教授と寺澤で、スケジューリングの監修をしていますが、監修料はいただいておりません。



2) 世界最高レベルの測定精度を誇る測定ツール

これまで不可能であった測定を可能にしています
このソフトの最大の特徴は、一夜漬け的な学習効果を排除して、学習者個人の実力(到達度)レベルを時系列変化として非常に高い精度で描き出せる点です。携帯ゲーム端末用のソフトですが、学術的にも、現段階で世界最高レベルの測定精度を誇る測定ツールであることは保障できます。現時点で、日々の学習に対応し個人の実力レベルの到達度の時系列変化を描き出している研究はありません。

日々の学習効果は自覚できないレベルで積み上がっています
マイクロステップ計測技術は、従来測定できなかった、学習者の実力(潜在記憶)レベルの到達度の時系列変化を、個人ごと、また学習内容の一つひとつについて、客観的に描き出すことを可能にしました。一生懸命覚えても、すぐ忘れてしまうと思われている学習の効果が、実は、自覚できないレベルで、確実に積みあがっていることを、客観的なデータとして学習者に個別にフィードバックすることを可能にしました。意味がないと感じるような日々の学習が、確実に自分の成績を向上させていく様子がフィードバックされると、学習意欲は確実に高まります(それを示すデータが、小中学校の長期学習実験や不登校児童生徒の学習支援などで得られ始めています)。

網羅的な学習を提供します
このソフトでは、全ての英単語を網羅し、個々の英単語ごとに学習やテストスケジュールを制御しているので、個々の英単語ごとに実力レベルの到達度を時系列データから推定することが可能になっています。実力レベルになったと客観的に判断された単語は、オボエ単語として学習対象から抜けていきますが、オボエ単語の増加は、皆さんが英語を学習していく上で、(ゲーム的架空の武器やパワーではなく)実質的なパワーが増強されることを意味しています。

様々な新事実が明らかになってきます
実際にこのソフトを学術研究に活用し、これまでにない興味深い知見も出始めています(2009年度日本心理学会で麻布高校の実験結果を報告する他、ワークショップで話題提供を行う予定です)。今後、新しい事実が数多く報告できると思います。
2007年日本テスト学会大会発表論文抄録集原稿
2009年日本心理学会大会発表予定原稿



3) 今後の研究の展開について

高校や大学、塾などでの実践研究
英単語の学習は、これまで完全に学習者に任されていました。学習者がどのくらい学習をし、どの程度の語彙レベルになっているのかを教師などが把握することはできませんでした。それに対して、このソフトで描き出されるグラフを見れば、どの生徒がどの程度学習をし、語彙レベルがどの程度になっているのかは一目瞭然です。現在、高等学校、大学、塾などを単位として、このソフトの学習データを大規模に集約し、平均データを出力するシステムを開発中です。DSのソフトは自主学習には最適なシステムですが、多少、ペースメーカー的に、教師などが学習を促す指導を入れるなど、多少のストレスを加えた方が、学生にはメリットが大きいと思います(麻布高校の岩佐教諭や岡大生の助言を参考にしています)。21〜22年度、活用を申し出ていただいている大学研究者と、若干の高校(学年単位かクラス単位)を募り、実質的に語彙力アップを目的とする学習実験を始める予定です(DS本体を生徒全員が利用できる環境があれば、実質的に学校規模で語彙力をあげる実践もできると考えています)。これまでの研究知見を見る限り、このソフトを長期に利用できる状況を作れば、学習者にも、教師にも、大きなメリットを提供できると考えています。

「やればできるようになる」ことを実感できる小中学校におけるドリル学習支援
マイクロステップ技術を用いた研究で、最大の研究フィールドは、小中学校における、オリジナルな印刷教材や、e-learningシステムを用いた学習支援にあります。平成19年度より、小学校の漢字や中学校の教科書の英単語をコンテンツにスケジューリングを施した独自のドリル教材を作成し、全校規模の学習支援を小中学校で展開し始め、21年度は岡山と京都で1000人を予定しています。また、不登校児童生徒の学習支援と意欲向上を目的とし、e-learningと地元支援者の支援をかみ合わせた、ユニークな実践も進めています(保健師さんとの共同研究が、学会から賞をいただきました。また、岡山市の教育委員会からの正式な依頼で、不登校児童生徒の学習支援を21年度導入します)。
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第6回日本認知心理学会優秀発表賞「社会的貢献度評価部門」受賞(学外サイト)

一つ、WEBと紙教材(OCR教材)を併用して、10ヶ月にわたり、ひとりの不登校生徒の学習支援を行った実践で得られた典型的なデータを下の図に示します。従来のe-learningと異なり、学習者の到達度レベルが客観的にフィードバックされることが、マイクロステップドリルの特徴です。下の図は、漢字の読み学習ドリルで、用意された3つの難易度の学習で得られた、客観テストのデータです。最初、フィードバックがなされる前は、従来のe-learningと同様にだんだんと学習をやらなくなっていったのですが、成績をフィードバックして、成績の上がりが見え始めたとたんに、信じられないペースで学習を続け、あっという間に10ヶ月が終わりました。1つの難易度ランクを30週(半年以上)をかけて習得するよう予定してスケジューリングをしていましたが、その30週間分の学習を、最初の1ランクは約3ヵ月、次のランクは2ヶ月、3つめのランクは1ヶ月足らずで終わらせてしまいました。こちらの準備が間に合わないほどのペースで、10ヶ月間、学習を進めました。これには正直驚きましたが、すごいパワーを感じましたし、この生徒の学習には、地元の支援者も、私自身も、言葉に表せないほど励まされました。
不登校生徒の漢字の読みドリルの学習成績の変化データ(3ランク分)

不登校生徒の漢字の読みドリルの学習成績の変化データ(3難易度ランク分)


学校の全校規模での学習支援と、不登校児童生徒の学習支援は、確実に基礎学力の向上には寄与でき、また、特に小中学生においては、意欲の向上もほぼ間違いなく期待できる段階になってきています。非常に意味のある形が見えてきていますが、一気にその範囲を広げることはできません。現在、3年ほど前からこの研究に強い関心を寄せていただき、その内容にご理解いただき、積極的に動いてくださる方がいらっしゃる学校などに限定して支援を拡大しています。上の図の不登校生徒の支援のように、民生委員など、地域の支援者の協力を得て支援を進めるアプローチも確立できつつありますが、現状では、財政的な裏づけと(寺澤研究室の)マンパワー不足のため、これ以上広げることはできない状況です。
21年度後期、岡山市、玉野市、長岡京市(京都府)、真庭市の小中学校を対象に、約1000人の学習支援を実施することにしていますが、それが実現できたのは、岡山大学の学内COEという研究支援事業の経費があったためです。21年度後期に、以下で述べるように、印刷ドリル教材に企業などの広告費を掲載し、でこの学習支援を無償にする活動を本格化しようと考えています。そのモデルがうまく動けば、徐々に支援の範囲を拡大していくことができると思います。このホームページで、その進み具合をお知らせしますので、現時点でのお問い合わせは避けていただけると幸いです。
財政支援が可能な市町村などがあれば、すぐにも適用できる段階になってきましたので、一度お問い合わせいただければと思います。ただ、いずれにしても一気に大規模に展開するためには、まだ準備が必要な段階であることにご理解いただきたいと思います。
マイクロステップ計測技術を使った学習支援は、上の図のように、一人ひとりの子どもに確実な変化を引き起こします。その変化は、まわりの大人にも驚くほどのパワーを与えてくれます。動機付けの伝播の影響は、計り知れないと思います。

学校に提供する印刷教材を新しい教育メディアとする実践
マイクロステップ計測技術を一般の学校で導入する学習支援に対しては、あまりオープンにしてきませんでした。オープンにできなかった理由は、支援の実施にドリル教材の印刷経費の捻出が難しかったためです。岡山大学の重点研究の採択を受け、毎日使うドリル帳に企業や個人から寄せていただくメッセージや広告を掲載し、その寄付や広告費を大学に入れることにより、印刷やデータの読み取りの費用をまかなうスキームを21年度後半より、試験的に開始する予定です。その広告は、単なる広告でなく、地域の子どもたちの学習を実質的に支援する色合いを持ちます。さらにまた、私たち大人が、幼少の頃から受け継いできた大切な思いを、次世代を担う子どもたちに直接つなげる新しい教育メディアとしていくことを目指しています。社会的に価値のある行動をされている企業や個人は多くありますが、その思いは次の世代を担う子どもたちにダイレクトには伝えられていません。現在子どもが手にする情報は、学校の学習内容かテレビやインターネットで手に入る情報に限定されています。マイクロステップ学習支援を財政的に自立させることをかねて、新しい情報のルートを構築できると考えています。当面、1000〜2000名の児童生徒を対象として限定して支援を進めながら、広告費で学習支援の経費をまかなえるモデルを構築していこうと考えています。

様々な方々からメッセージをお寄せいただいています
ドリル教材を新たな教育メディアとして活用していくプロジェクトを、マイクロステップ研究会という研究会を主催して進めています。その活動には、高嶋哲夫さん、advantage Lucy(アドバンテージ ルーシー)さんやセロファンの西池さん、枝廣淳子さん、つやまあきひこさん、前田憲男さん...などから支援の表明や具体的なメッセージをいただいています(スキマスイッチの常田さんにも個人レベルで支援の表明はいただいています)。下にメッセージの例を掲載しています

   マイクロステップ教育プロジェクトの概要図

   これまでに子どもたちに届けられたメッセージの例

広告効果の科学的測定とノウハウの蓄積
上記、教育メディアを構築していくことと連動させ、広告効果を厳密に測定・評価していく研究を22年度から立ち上げる予定です。マイクロステップのスケジューリング技術は、広告の提示スケジュールを科学的に厳密に検討することを可能にしますので、その効果測定と絡めて行く予定です。各企業の広告は、どのようなペースで、どのように提供すると効果的であるのかを測定し、その結果を企業に提供するサービスをたちあげようと考えています。マイクロステップのスケジューリング原理は学習に特化されるものではありません(→マイクロステップ技術(測定技術)についてを参照:20,21年度の岡山大学の重点研究として採択されています)。



4) マイクロステップ計測技術に関する資料

マイクロステップ計測技術に関する、一般の方向けの資料はまだあまりありませんが、次の資料をご参照下さい。

放送大学 '08 記憶の心理学 第8回の映像教材(2011年度まで放映予定)
太田信夫(編) 『記憶の心理学』 放送大学教育振興会(第8章 記憶と学習:pp.120-133, 2008年)
寺澤孝文・太田信夫・吉田哲也(編著) マイクロステップ計測法による英単語学習の個人差の測定 風間書房, 2007年(科学研究費補助金により出版されたかなり専門的な本です)
太田信夫(編)『記憶の心理学と現代社会』,有斐閣(第4部第4章 自覚できない到達度を描き出す e-Lerning,pp.187-205. 2006年)
森 敏昭(編著)『認知心理学を語る@ おもしろ記憶のラボラトリー』 北大路書房(第5章 記憶と意識−どんな経験も影響はずっと残る−:pp.101-124,2001年)
現在一般向けに本(培風館)を執筆中です
マイクロステップ計測技術に関するパワーポイントの資料などを公開しています(
Linkを参照)。

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