Research subjects

1) 記憶の超長期持続性に関する研究

1,2秒のわずかな学習であっても,その効果は少なくとも数ヶ月単位で残る.これまでの記憶の常識と相容れないこの現象を基本として,人間の記憶理論の再構築を行っている.実験を行うたびに信じられない人間の能力に驚かされているが,現在,この現象の報告よりも,次のマイクロステップ計測技術の確立にほとんどの時間を費やしてきた.この現象に関しては,ごく最近,無意味な聴覚刺激を用い,それを聴いた経験の効果を数ヶ月後の実験で確実に検出できる実験方法を確立した.誰が実験を実施しても,比較的容易に,そして確実に,数ヶ月前のわずかな経験の影響を大きな効果として検出することができる.

2) 学習効果のマイクロステップ計測

(1)の研究に基づき,非常に微細な学習効果の積み重ねを長期的な視野で測定する研究を行っている.英単語や漢字学習の長期的な学習プロセスを厳密に記述し,学習の見通しの提示,および予測を可能とするシステムを構築し,それを用い学習到達度の個別フィードバックを行っている(下図にそこで得られたデータを示した).現時点で,縦断的に学習到達度の変化を,個別にまた非常に詳細に描き出すこと,さらにその変化を個別にグラフとしてフィードバックすることが可能になっている.個人レベルで到達度の時系列変化を詳細に描き出している研究は世界でも例を見ないが,それを可能にしている基盤には,心理学的の実験計画法に関する高度な知識と,それを膨大な学習コンテンツや学習条件,学習スケジュールに適用するための,データベース技術の全く異なる2領域の融合が不可欠である[本研究は,これまでに,科学研究費補助金,基盤研究B(研究代表者:寺澤孝文,課題番号:11559013),基盤研究A(研究代表者:寺澤孝文,課題番号:14209010)の助成を受けた].

この研究の成果については,寺澤・吉田(2006)が分かりやすいと思います.方法論の原理的な部分とそれをシステムとして実現するための基本的な枠組みについては,だいぶ難解な内容ですが,寺澤(2006:特許第3764456),寺澤(2004:PCT/JP2004/006487)を参照いただきたい.

学習効果のマイクロステップ計測

※図は,高校生が大学受験に必要な英単語の学習を一日10分程度継続した場合の,成績(自己評価)の変化を個別に表したもの(枠内はマスターするのに必要な期間の予測値).マイクロステップ計測技術により,到達度のわずかな変化をこのような形で個別に描き出せるようになっている.システムの自動化を進め,ようやくであるが,平成18年5月現在,一般の小学校などで,ドリル学習が行われるごとに,このような個別の到達度データを個別にフィードバックできるようになってきている.

【資料のダウンロード】
マイクロステップ関係公開資料(適宜利用してください:商用目的は除く:外部リンク)

子どもたちの学習意欲を低下させないために(動機づけの研究)[PowerPoint]
子どもの学習意欲の向上に向けて-教育評価の新しい流れ-[PowerPoint]
  (マイクロステップ計測と体験重視の理論的根拠)
やればできる!THEマイクロステップ技術で覚える英単語(岡大記者発表資料) [PDF]



3) 記憶ベースのパターン認知モデルの構築(記憶・認知の理論研究)

人間の行動データから推測される記憶理論を,人間のパターン認知に応用したシステムの開発を行っている.ニューラルネットとも異なる,シンボルを仮定しない,新しい人工知能の開発につながると考えている.現在の人工知能研究の多くは,個体内にシンボルやルールを保持していることを前提としている.しかし,そのシンボルやルールはどのように形成されていくのかという点を説明できる理論は限られている.それに対して,この理論は,個人に入力される膨大な非シンボリックなデータの蓄積のみで記憶表象は構築されているという理論に基づき,そのような情報のみから人間のシンボリックな認知処理を実現できることをシミュレーションによって証明している.ロボットの場合,ルールやシンボルを研究者があらかじめプログラミングしておく必要はないともいえる.

例えば,下でダウンロード可能になっているシミュレーションシステムを試してみていただきたい.非シンボリックなデータの例として手書き文字(ドットパターン)をコンピュータに多数書き入れ,蓄積する.その状態で,新たな手書き文字を分析情報として入力すると,入力される手書き文字と蓄えられている多数の手書き文字のみから,活字と呼べるシンボリックなドットパターンが生成されるシミュレーション結果が得られる.活字はもちろん,活字を生成するルールなどは一切システムには組み入れられていないにもかかわらず,活字と呼びたくなるドットパターンが,非常に単純なアルゴリズム(UMEモデル)で生成できることが明らかになっている.UMEについては,Terasawa(2005)でその原理が導き出される論理が紹介されている.また,このモデルと従来の認知モデル(ニューラルネットやプロダクションシステムなどの人工知能)との違いについては,寺澤(2005:森正義彦(編著)「理論からの心理学入門(培風館)」)で分かりやすく紹介している.

UMEの具体的なシミュレーション結果の例を下図に示した。まず、図の下のほうに並んでいるように、手書きの数字を画像データとしてたくさん入れておく。そこに、左上の赤丸で囲まれている、3のような手書きの画像(input)を入力刺激として入れる。蓄えられているのは、この2種類の手書きの文字(画像)だけである。この画像データと、UMEの単純な計算処理だけで、図の真ん中にある活字の3のような画像(echo)が生成できる。活字のような3であるが、このシステムには活字は一切蓄えられておらず、画像以外の情報は蓄えられておらず、活字を生成するような工夫も入れてない(かなり不思議な感覚が得られる)。また、echoにある3の合成には、下にある手書き画像(長期記憶)の中で枠が黒っぽくなっている画像が全て関与している。


UMEのシミュレーション結果のサンプル

UMEのシミュレーション結果のサンプル


この、UMEのシミュレーションは、活字というルールが、過去の経験から入力される非シンボリックな画像情報のみから生成できることを意味している。必要なものは非シンボリックな情報とごく単純なUME処理のアルゴリズムだけである。人間の行動データに基づく、かなり苦労した推論の結果導き出した処理原理であり、処理は3つ4つの数式で表現される単純なアルゴリズムでなされる。そのアルゴリズムに、経験として入力された多数の手書き文字(の画像)と、処理が求められる手書き文字(画像)を入れるだけで、なぜか、シンボリックな活字のような画像が生成される不思議な結果を手にすることができる。具体的な処理の流れや出力結果は、寺澤(2005:理論からの心理学入門 培風館、3章)や寺澤(2008:記憶の心理学 放送大学振興会、4章)などで紹介を始めている。
UMEは非シンボリックな情報をベースとした認識モデルである。したがって、手書き数字と同様、非シンボリックな画像データのみで、道路のどこを人間が通るのか、その道筋を生成することも可能である。具体的な説明は こちら を参照してほしい。
さらに言えば、UMEの原理は、パターン認識(生成)だけでなく、自然言語処理などにも適用が可能と考えており、そのあたりの応用を東芝の研究開発センターにいらした木治さんと続けていくことにしている。この処理原理は、個人的にはとても大切な原理の一つで、マイクロステップ技術以上に大切な理論の一つである。特許にはしているが、学術論文には一切書いていない。その理由を話すのは、結構つらいことである。

【ダウンロード】
UMEのダウンロードとマニュアル

4) fMRIによる脳研究

fMRIのデータを手がかりに,脳における記憶メカニズムの理論化を行っていた.最近は,一歩ひいて上記の研究に集中している.脳のメカニズムに関しては,MANと呼んでいる,独自のニューロ原理を構築している.詳細は上記の研究が落ち着いてからアピールしていきたい.

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