任天堂DS用ソフト「THE マイクロステップ技術で覚える英単語」Q&A

  • 英単語をただ読み流すだけの学習でいいんですか?

    このソフトでは、一生懸命覚えようと方に力をいれて覚えたり、書いて覚えたりする必要はありません。自分の到達度を気楽に判定していくだけで結構です。

    そんな簡単で安易な学習で覚えられるか心配になるかもしれませんが、心配しなくても大丈夫です。本当に気楽に覚える学習で、実力は確実に上がっていきます。この点は、最新の記憶研究の知見から言えることです。詳細はまた別途紹介していきます。

    また、一日の学習の中で出てくる単語を完璧に覚えこもうとしなくても大丈夫です。忘却曲線を引いて、記憶はすぐに忘れてしまうから、忘れる前に何度も学習して覚えていくような学習法が推奨されることがあるようですが、それは明らかに間違いです。忘却曲線は、一夜漬けの学習効果を顕著に表していますが、それは「顕在記憶」と言われ、実力に対応する「潜在記憶」とは全く異なる特徴を持っています。一般に記憶はすぐ忘れてしまうと思われているのは、「顕在記憶」によるイメージですが、いわゆる実力は新しい記憶研究で注目されている「潜在記憶」に対応し、その特徴は、一般的な記憶のイメージとは全く相容れないものです。みなさんが持っている記憶のイメージで実力を高めるための学習法を考えることは大きな間違いです。この点は、「潜在記憶」に関する一般書も最近でていますから、参考にしてください。


  • 「THE マイクロステップ技術で覚える英単語」はゲームじゃない!?

    このソフトは、NINTENDO DS用のゲーム端末用に開発されたソフトですが、ゲームソフトではありません。このソフトは、これまで測定できなかった、あなたの自覚できない実力の変化を科学的に測定できる精密な測定装置です。

    このソフトを使っていただいた感想がいくつかインターネットで紹介されていますが、その多くは、ゲーム的な機能についての感想で、学術的な特徴についてはあまり触れられていません。残念ですが、このソフトの最大の特徴は、ぱっと見だけでは決して理解していただくことはできません。その特徴こそ、このソフトがこれまでの学習ソフトと一線を画す点なのですが、仕方がないといえば仕方がないですね。それを補うためにこのようなホームページを立ち上げることにしました。

    このソフトは任天堂DS用に開発されたため、ゲームと思われがちですが、私たち研究者は、最先端の測定技術を導入した、科学測定装置として認識しています。つまり、このソフトは最先端の研究用の測定にも十分耐えうるソフトです。このソフトを使って学習をしても、最初のうちはどこが最先端なのかお分かりにならないと思います。ですが、本気で英単語を覚えたいと思い、2ヵ月ほど勉強を継続していただければ、これまでの学習ソフトとの決定的な違いをわかっていただけると思います。

    このソフトは、私(寺澤)と筑波大学名誉教授(4月より学習院大学教授)の太田信夫先生が無償で、かなり時間をかけて監修をしています。その理由は、このソフトが先端の記憶研究と測定技術を出発点としているためです。このソフトは、「楽しく」とか「面白く」英単語を覚えることを主眼としたソフトではなく、先端の研究成果を一般の方に還元することを主眼としたソフトなのです。現に、このソフトのβ版を使って実施した予備実験で得られた結果は、2007年に日本テスト学会などで発表されていますが、これまでの研究で得られなかった非常に興味深い結果が得られています(テストの測定精度を飛躍的に高める新しい測定技術[word])。


  • このソフトの何が最先端なんですか?

    このソフトのタイトルにある、「マイクロステップ技術」というものが最先端の技術です。2007年2月、国の科学研究費(いわゆる科研)による出版助成によって、「マイクロステップ計測技術による英単語学習の個人差の測定」という本が出版されました。ちなみに、この本は、1冊1万円を超える専門書ですから、一般の方はくれぐれも買わないよう気をつけてください(定価のケタを見間違えて購入された方がいらっしゃるようです)。

    この中に初めてマイクロステップ技術の大枠を紹介し、その技術を使うことで、これまで描き出せなかった、個人の実力の変化を驚くほど高い精度で測定できる事実が、たくさんの実験データによって示されています。この技術を使った研究に対しては、出版助成以外にも、科研等の研究助成を数多く受けています(基盤研究B・A、NEDO、その他)。特に、基盤研究Aという枠の助成は、社会科学系の領域では最大規模の助成で、なかなか採択されるものではありません。この技術の実用化にあたってはどうしてもシステムの拡充経費が必要であったため申請したのですが、正直採択されるとは思ってもみなかったほどの助成です。そのおかげで、この研究は大きくレベルアップし、一般の小中学校で全校規模の新たな学習支援が実現できる段階になったほか、不登校支援でも、想像を超える新たな実践が実現できるようになって来ています(この様子については、平成20年度から放送大学の「記憶の心理学」という講座で取り上げられます)。マイクロステップ計測技術を核とした研究は、着実に、また、確実に広がってきており、世界の中でも私たちの研究と同様の成果はまだまだ出てこないと思います(だいぶ自慢が入っています..)。


  • 最先端の研究成果がゲームソフトになった理由は?

    この技術のアイデアが出たのは10年以上前にさかのぼりますが、実際にコンピュータシステムを構築し、それを用いて実証実験を完了することは想像以上に大変なことでした。この技術は、実験心理学の新しい実験計画法(スケジューリング原理)をデータベースシステムとしてコンピュータに実装することで初めて実現できる技術で、その中身は私自身、本当に目を背けたくなるほど複雑です。

    ようやくそれが実用レベルのシステムになってきたことを受けて、そのシステムを使って作り出した、(このソフトを開発した時点で、実験データに基づき)最適と考えられるスケジュールを、任天堂DS用ソフトに組み入れたのがこのソフトです。この研究は、システム開発が論文以上に重要な意味を持っています。逆に、システムがようやく安定してきた今、ゲーム会社の力を貸していただけさえすれば、すぐにも最先端の研究成果を一般の方に還元できると考えたわけです。

    といっても、しがない研究者の、分かりにくい研究成果を、ゲーム会社が取り上げてくれるとはもちろん思っていませんでした。その間をつないでくれたのが、リクルートのテクノロジーマネジメント開発室でした。この部署はとてもユニークな部署なのですが、その部署の方(原健二さん)が、マイクロステップ計測技術に関心を持ってくださり、本当に分かりにくく、複雑な原理とシステムの中身を一から勉強して、さらにそれをD3 PUBLISHEというゲーム会社につなげてくれた他、システム開発にも深く関わってくれました。

    とかく、ゲームは、たくさん売れるように、面白くなければいけないと考えられがちです。しかし、この研究は、まさにこれから本格的に発展していく研究です。それからすると、スケジューリング技術や記憶研究に関して誤った事実がソフトの中に入ってしまうと、それを監修する私や太田先生も、記憶研究者として命取りです。その点を十分理解していただいたD3 PUBLISHEの伊藤社長や高木さんをはじめ、開発会社のヴァンテアンシステムズの開発者の方々に、このソフトの開発に関わっていただけたことはとても幸運でした。また、その点の意思の疎通は当然難しいところもありますが、その間に入っていただいたリクルートの原さんには、本当に感謝しています。最先端の研究成果の内容を一般の方に届ける方法はいくつかありますが、実質的に一般の方にメリットを直接提供できる機会はそうそうあるものではないと思います。マイクロステップに関する研究では、新しい成果がどんどん出てきていますが、その成果を直接一般の方に提供できる一つのルートができたことは、とても意義深く感じます。


  • どうしてゲームソフトをつくったんですか?

    マイクロステップ技術を、ゲーム端末用のソフトに導入したのは、必然でもあります。実のところ、前述した国の助成を受けた研究では、一般の学校で、マイクロステップ技術を導入したドリル学習支援を実践したのですが、その1つの学習形態として、情報端末を使った学習実験を実施しました。10年前は、パソコンを高校生に貸与して自宅で学習をしてもらっていましたが、3年前にはPDAを小学校の教室に配置し、毎日学習をしてもらい、予想通りの成果を得ています(個人差が描き出されるレベルで一人ひとりの成績の変化を描き出すと同時に、子どもの意欲の向上が引き出されました)。徐々に処理端末は小さくなり、現在は、携帯電話でも学習ができる状況もできています。このように学習環境の多様化を進めてきて、現在最も理想に近いと行き着いたのが、ゲーム端末です。

    一般の小中学校で必要となる理想的な学習環境は、子どもが容易に操作でき、画面表示や入力が容易で、インターネットが接続できない家庭の子どもでも自宅で学習ができ(かつインターネット接続は学校でできる)、さらに端末の導入費用も少なくて済む、携帯ゲーム端末を利用した環境と考えています。マイクロステップ技術は、英単語学習のような一問一答式のドリル学習に特化した技術ではなく、どのような学習コンテンツに対しても導入できる技術です。私は、今子どもたちが自宅でやっている宿題の類を全てスケジューリングし、WEBや携帯ゲーム端末やパソコン上で提示し、一人ひとりの子どもの全ての反応データを収集し、実力の変化や、それぞれの子どもが苦手な問題を描き出すことを最終的な目的としています。それにより、一人で学習できるような内容は、自宅で勉強し、一人ではできない学習や活動こそ学校でやるべきだと考えています(これについては別のところで話します)。

    これまで様々な情報機器を使って実験をしてきましたが、それからすると、一人ひとりの子どもが、自分の成績の変化を正確に把握しつつ、見通しを持って楽しく学習できる状況を用意する上で、昨今のゲーム端末は、とても理想に近いものといえます。この技術のゲーム化の話が出てきたのが、ちょうどPDAを端末として使った小学校での実験が終わったころで、PDAを使った学習環境の短所もはっきりした時期でもあったため、この技術のゲーム化の話にすぐに乗りました。


  • ゲームをするだけで本当に英単語を覚えられるんですか?

    携帯ゲーム機を使った学習実験はもちろん初めてでしたので、学習の成績が従来どおりきれいに描き出せるかどうかは、実験データで確認しなければなりません。そこで、ゲーム開発と平行して、予備実験を実施しました。

    その結果は、予想以上でした。大学生と社会人に約50日間学習を継続していただいた結果、成績が上昇していく様子が一人ひとり予想以上にきれいに描き出されました。図は予備実験で得られたデータをD3 PUBLISHERさんに加工していただいたものです。大学生と社会人4名の個人ごとの成績の変化が描き出されています。

    β版を利用した予備実験の結果の一部

    図 β版を利用した予備実験の結果の一部


    さて、図は学習者の”実力”の変化を表していますが、これだけ見ていただくと、「成績の上昇が描き出されただけじゃないの?」と思われ、このどこが最先端なの?と言われそうです。

    勉強したら成績が上がっていくのは当然で、それがグラフになっているだけですが、ここでよく考えてほしいことがあります。みなさんは、学校で英単語の単語テストを何度も受けたことがあると思います。家でがんばって勉強してテストに臨めば、100点満点をとることもできると思います。ですが、例えば勉強してから10日後に、不意に同じテストが出された時、100点を取る自信はあるでしょうか?100点はまずとれないでしょう。

    つまり、ある日に覚えた英単語が、その日のうちにテストに出てくれば当然よい成績がとれますが、それは実力とは全く違います。受験などで重要となる実力は、一夜漬けの学習効果を排除しなければ、正確に測定できないのです。この実力を正確に、そしてまたたくさんの学習内容ごとに測定することがこれまで難しかったのです。 事実、「勉強すれば成績が上がっていく」とよく言われますが、このような”実力”の変化を図のように客観的に描き出している研究は全くないのです。さらに言えば、個人ごとに図のような実力の変化を描き出している研究などは本当にないのです。あったとしても、一夜漬け的な学習の効果が混入した成績の変化を、平均値であらわしているものしかないはずです。みなさん自身、自分の成績が図のように直線的に変化していく様子を見たことは、生まれてこの方一度もないはずです。このよう実力の変化を個別に客観的に描き出せるということは、裏を返せば、あなたの実力が最高のレベルになるのにどのくらい学習が必要であるのかを個別に予想できることを意味していますし、学習法の効果を確認することができることを意味しています。

    さらに、このソフトは、2000語を超える英単語の一つ一つについて、実力の変化を詳細に継続して測定・記録し、それらの成績を基に、一つ一つの英単語についてマスターしたか否かを判断してくれます。センター試験のような、従来のテスト技術では、たくさんある学習内容のうちごく一部を取り出してテストを構成するため、簡単な問題からテストが構成されれば成績は当然高くなるなど、正確な実力の測定はできませんし、一部からテストが作られる限り、学習内容の一つ一つに対する実力のレベルを正確に測定することは不可能でした。膨大な学習内容の一つ一つについて、「あなたの実力レベルはこのぐらいですよ」と客観的に教えてくれる学習ソフトは、このソフトだけでしょう。

    もう一つマニアックなことですが、現在の模試などのテストでは、テストに出てくる内容をいつ学習したのかは一切考慮されていません。1日前に勉強したのか、1週間前、1ヵ月前、1年前に学習したのかなどは全く考慮されていません。学習から時間がたてばたつほど当然成績が悪くなります。現在の一般的なテストでは、学習とテストの間隔(インターバルといいます)の影響も当然排除されていません。

    学習の効果を測定する現在のテスト技術は、これだけ限界を持っているわけですから、その成績で個人の実力レベルを測定することが難しいのは当然です。

    それに対して、マイクロステップ技術が評価されるのは、このような限界を全て解決する技術だからです。詳細は別にして、この技術は、テストだけで成績を推定するのではなく、何度もなされる学習について、どんな学習をいつ行い、それからどのくらい期間をおいてテストを行うかを、何千という学習内容の一つ一つについて詳細にまた長期にわたって緩やかにスケジューリングする技術です。さらに、学習システムではそのスケジュールに従い学習やテストを生起させ、収集される膨大な反応データを収集・記録し、その反応の時系列変化を基に、その人の実力レベルを推定し、また予測を導き出すわけです。


  • スケージュリング科学?

    このスケジューリング原理がこの技術のコアになりますが、「スケジュール」という概念はととても身近な概念で、何が新しいのか不思議に思われると思います。ところが、これまでスケジュールという概念は、これまで科学のメスが入れられてこなかったのです。

    例えば、1000個の英単語をそれぞれ5回ずつ学習し、それから1ヵ月のインターバルをあけてテストをする場合、従来の測定法によれば、ある日に延べ 5000個の英単語を学習して、1ヵ月後に1000個についてテストをすることが一般的です。しかし、それでは学習に何時間も要してしまいます。したがって、学習を何日かに散らばせる必要がありますが、学習を散らばらせた場合、テストまでのインターバルがそれぞれ変わってきてしまいます。一日の学習時間は短く、なおかつ全ての学習項目について、テストまでのインターバルが等しくなるような方法を考えてみてください(結構いいパズルです)。たくさんの学習内容の一つ一つについて実力を正確に測定していく方法はこれまでになかったことです。マイクロステップ技術は、このようなパズルをクリアし、学習到達度を正確に測定していく、従来にない新たな測定法(実験計画法)が複数導入されています。

    さらにやっかいなことは、この実験計画法(スケジュール)をコンピュータシステムとして実装する方法です。現在一般に使われているスケジュールの表現方法は、非常に冗長で、コンピュータの処理には全くなじまないものです。何万という学習やテストなどのイベントがいつどのように生起するのかを定義し、それに従ってイベントを生起させ、さらに反応データを解析していくための方法論は、これまで一切、科学的な研究の対象とされてこなかったのです。

    例えば、このソフトのように、2000を超える英単語の一つ一つについて、何10回となされる学習とテストを、いつ、どのようにやるのかを年単位で記述する方法を考えてみてください。1日目はapppleという単語を4回、melonを1回...、2日目は...と何万という学習とテストイベントの生起スケジュールを書き出すことはできますが、上で説明した実験計画法に合致し、なおかつ成績を解析すると分かりやすい結果が得られるようなスケジュールを動的に作り出す方法がなければ、スケジュールを制御することはできません。さらにスケジュールの表記方法から、具体的にスケジュールに従ってイベントを生起させ、学習者ごとに反応データを収集・記録する技術は、これまで全く研究されてこなかったといえます。

    現在、このスケジューリング技術は、このソフトのような学習評価に応用していますが、実際のところその応用範囲はもっと広いと考えています。例えば、多くの経費を費やして、企業がダイレクトメールを出していますが、そのヒット率を高めるスケジュールを推定することも原理的には可能でしょう。このあたりはまたお話しようと思いますが、スケジュールを科学するスケジューリング・サイエンスという学問領域が広がっていると思っています。スケジュールを科学するということは、経験を科学することと同じです。これまで一口に経験といわれ、科学的な定式化がなされてこなかったものに科学的な基盤を提供することがこの研究の(個人的な)最終目的でもあります。私は生きていないと思いますが、将来的には、人工知能やロボット工学の領域で不可欠な情報を提供する領域になっていくと考えています。


  • TOEICの学習にも有効

    皆さんは大学受験の時に、どんな単語の参考書をつかったでしょうか。シケ単、ターゲット、速読英単語など、いろいろあると思います。このソフトに組み入れられている2,170の英単語は、そういった単語本9冊を入力し、3冊以上で重複して掲載されている英単語を抽出し、さらにその単語の一つひとつについて、国立大学の1,2年生900人弱に、難易度などを評定してもらった結果を基にして、難易度のランキングを作っています(これは大変な作業でした)。そのランキングを、さらにTOEICで必要とされる単語本で、得点レベルが記載されている本(3冊)の得点ランクと対応付ける作業を行いました。その結果、大学受験で必要とされる英単語の難易度とTOEICの難易度レベルが非常に一致することがわかりました(未発表)。この結果自体、意外な結果だったのですが、TOEICで700点を超えるような得点を目指すときに必要となる英単語が、実は大学入試で必要な英単語として高校生が勉強している単語本に収録されているということです。

    これは裏を返せば、「TOEICで高い得点をとるためには、大学入試で必要とされる英単語に積み残しがあるとだめだ」ということを意味しています。このソフトに収録されている英単語は、大学入試で必要とされる英単語ですが、他方で、TOEICで高い得点を採るためには避けて通れない単語だということです。

    ちなみに、TOEICで800点を超えている人が、このソフトの一番難しい難易度(SS)を学習し、完全にマスターするのに何日かかったかが、報告されていますので、掲示板を見てみてください。


寺澤研究室について

寺澤研究室は平成29年度現在、学部生7名、修士2名、博士(連大)1名で「学習や記憶」「新たな教育評価」「縦断的ビッグデータ」に関する研究を行っています。
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