記憶は消えない!感覚記憶を人は数か月単位で保持する!
見流したり聞き流したりしているメロディを人間は少なくとも3,4ヵ月憶えているという、記憶の常識がひっくり返る事実が主要な学術雑誌に掲載され始めています。1,2秒のわずかな学習であっても、その効果は少なくとも数ヶ月単位で残る。これまでの記憶の常識と相容れないて、人間の記憶理論の再構築が必要となる事実が動き始めています。最近、無意味なメロディなどを用い、それを聴いた経験の効果を数ヶ月後の実験で確実に検出できる実験方法を確立し、誰が実験を実施しても、比較的容易に、そして確実に、数ヶ月前のわずかな経験の影響を大きな効果として検出することができます。
現在、「すぐ忘れてしまう」といわれるように、記憶はすぐ消えてしまうと考えられていますが、それは全くの間違いです。記憶は想像以上に長期に残ります。それも、チラッと見た人の顔や意味の無いメロディなど、これまですぐに消えてなくなると考えられてきた感覚情報を、人間が少なくとも数か月単位で保持している、動かしがたい事実が出始めています。
もちろん、直接3,4ヵ月前に聴いたメロディを思い出すことはできません(直後でも思い出せないようなメロディです)。ところが、間接再認手続きという潜在記憶をおそらく最も敏感に測定することができる課題を使うと、人のある判断の得点を比較すると、数ヶ月前に聴いたメロディと聴いていないメロディに驚くほど大きな差が出てきます。毎学期、大学の授業でそのデモをやっていますが、その感想には、「信じられない!」「感動した」といったコメントが必ず寄せられます(最近の感想はこちらにあります)。
この事実は、単なる面白い現象にとどまらず、人間が注意を向けただけの感覚情報(言語刺激も)を注意を向けた瞬間に蓄え、長期に保持し、瞬時に再構成する能力を持っていることを意味しています。膨大な信じがたい情報を有限のニューロンで表現し、保持し、再構成する仕組みの理論は既に明らかになっています(MANのニューロ原理)が、詳細は次のマイクロステップというビッグデータの教育利用に道筋ができてから紹介していきます。
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関連する一般書
- 寺澤孝文(2001) 記憶と意識-どんな経験も影響はずっと残る-(第5章) 森敏昭(編著) 認知心理学を語る①: おもしろ記憶のラボラトリー 北大路書房, pp.101-124.
- 西山めぐみ・寺澤孝文. (2013) 未知顔の潜在記憶 ―間接再認手続きによる検討―. 心理学研究, 83, 526-535.
- 上田紋佳・寺澤孝文(2010) 間接再認手続きによる言語的符号化困難な音列の潜在記憶の検出 心理学研究 81, 413-419.
- 上田紋佳,寺澤孝文(2008) 聴覚刺激の偶発学習が長期インターバル後の再認実験の成績に及ぼす影響 認知心理学研究, 6, 35-45.
- 関連情報:(24年度)ひらめき☆ときめきサイエンスでの紹介:小学生対象
- 関連情報:(25年度)ひらめき☆ときめきサイエンスでの紹介:高校生対象
ビッグデータの教育活用:ビッグデータの質を飛躍的に高めることで、子ども一人一人の日々の学習の効果が可視化できる
一人の人間の行動を予測することを目指す研究領域において、個人にヒモつけできるデータ(縦断的データ)は貴重な情報となります。近年、そのような縦断的データを桁外れに収集できる状況が出てきています(TSUTAYAさんのTカードやPontaカードなど)。ところが、そのような情報は集めれば集めるほど微細な行動傾向が埋もれてしまう本質的な問題があります。つまり、人は、日常の中で、同じ行動(学習や購買)を繰り返し行動し、それらの行動を「いつ」どのようなタイミングで行うのかという条件(タイミング条件と呼びます)は無数想定され、さらにそのタイミング自体が大きな効果をその後の行動に与えます。言い換えれば、多数の縦断的データから行動予測を行うためには、タイミング条件等の時間次元に想定される条件を制御する必要が出てきます。この点は、人間の行動予測を目指してきた心理学等、社会科学の領域でも取り上げられてこなかった問題です。私たちは、これまで研究されてこなかった「いつ」というタイミングを制御し、一人当たり何十万件という桁外れの学習データを収集する技術(マイクロステップ法のスケジューリング技術)を確立し、それを英単語学習に適用した結果、一人一人の実力レベルの成績の上昇を初めて可視化されました。さらに、それをこどもにフィードバックすることで、つまらないドリルを主体的に継続する状況が確実に生み出されます。
図 マイクロビッグデータによる学習意欲と家庭の教育力の向上
近年、ビッグデータが注目されていますが、「いつ」という条件を考慮しなければ、大きな行動傾向しか拾い出すことは難しいといえます。それほど人間は正確です。1つの英単語を一度カードで覚えるような、微細な経験の影響は数か月単位で残り、その後の判断に影響を与えていくことは前述したように確実です。逆に、日々生起している微細で桁外れの数のイベントの生起タイミングなどを制御できれば、人間の微細な行動傾向を可視化することさえできるはずです。この考え方に基づき、1000語の英単語を何度も学習する状況で、学習やテストといったイベントの生起タイミングなどを全て統制し、ミクロで、膨大な縦断的データ(縦断的マイクロビッグデータ)を収集し、非常に微細な学習効果の積み重ねを長期的な視野で測定する研究を行っています。英単語や漢字学習の長期的な学習プロセスを厳密に記述し、学習の見通しの提示、および予測を可能とするシステムを構築し、それを用い学習到達度の個別フィードバックを行っています(下図にそこで得られたデータを示した)。現時点で、縦断的に学習到達度の変化を、個別にまた非常に詳細に描き出すこと、さらにその変化を個別にグラフとしてフィードバックすることが可能になっている。個人レベルで到達度の時系列変化を詳細に描き出している研究は世界でも例を見ません。個人の詳細な成績の変動データを子どもたちにフィードバックすることで、子どもの学習を継続しようというやる気は確実に上昇します。それを可能にしている基盤には、心理学的の実験計画法に関する高度な知識と、それを膨大な学習コンテンツや学習条件、学習スケジュールに適用するための、データベース技術の異なる2領域の融合が不可欠です[この研究は、これまでに、科学研究費補助金、基盤研究B(研究代表者:寺澤孝文、課題番号:11559013)、基盤研究A(研究代表者:寺澤孝文、課題番号:14209010)、基盤研究A(研究代表者:寺澤孝文、課題番号:22240079)の助成を受けています]。
この研究の成果については、寺澤・吉田・太田(2007:科研出版物)が分かりやすいと思います。方法論の原理的な部分とそれをシステムとして実現するための基本的な枠組みについては、だいぶ難解な内容ですが、寺澤(2006:特許第3764456)、寺澤(2004:PCT/JP2004/006487)を参照いただきたい。
- 関連情報:記者発表(岡山大学ホームページ)
- ・実用段階に入ったビッグデータの教育活用 スケジューリング技術で初めて見える子どもの実力
- ・「ビッグデータ」の活用方法を探る 岡山大学第一回フューチャーセッションで講演
- ・実用段階に入ったビッグデータの教育活用 スケジューリング技術で初めて見える子どもの実力
- ★実践の概要★:●マイクロステップ法による実践の紹介
- (A)★詳細情報(実践の詳細)★:●日本テスト学会第9回大会 企画シンポジウム1 資料
- (B)★詳細情報(理論的内容)★:●FIT2013発表:縦断的ビッグデータによる行動予測の本質的問題の解決
学術発表(詳細が書かれています:Aは心理学系、Bは工学系)
図 3人の高校生の英単語学習の習得データ
※図は、高校生が大学受験に必要な英単語の学習を一日10分程度継続した場合の、成績(自己評価)の変化を個別に表したもの(枠内はマスターするのに必要な期間の予測値)。マイクロステップ計測技術により、到達度のわずかな変化をこのような形で個別に描き出せるようになっている。システムの自動化を進め、ようやくであるが、平成18年5月現在、一般の小学校などで、ドリル学習が行われるごとに、このような個別の到達度データを個別にフィードバックできるようになってきている.
図 クラウドと新たな通信原理を導入した遠隔データ収集・フィードバックシステムの概要
- 関連情報:麻布高校で実施したDSソフトによる学習実験報告
- 関連情報:関係するPPT資料
心の体温計の実装
マイクロステップ法で作成された毎日のドリルの最後に意識調査をスケジューリングすることで、いじめなどで危機的状況にある子どものシグナルを検知し、それをカウンセラー等に配信することで、完全に水面下で子どもにアクセスし、一緒に解決することが原理的に可能になりました。
図 マイクロビッグデータによる子どもの危機の検知
- 関連情報(岡大プレスリリース):紙メディアによる完全な個別学習をインターネットと融合させた遠隔学習支援システムと心の体温計の実装
- ★詳細情報(実践の様子)★:●日本テスト学会第9回大会 企画シンポジウム1 資料
資料のダウンロード
- マイクロステップ関係公開資料(商用目的の利用は不可)
- 子どもたちの学習意欲を低下させないために(動機づけの研究)
- 子どもの学習意欲の向上に向けて-教育評価の新しい流れ-(マイクロステップ計測と体験重視の理論的根拠)
- やればできる!THEマイクロステップ技術で覚える英単語(岡大記者発表資料) [PDF]
異種通信システムとメディアの融合
E-MAILはE-MAILで、郵便は郵便で、LINKはLINKでと、テレビは家庭のテレビとテレビ局の間でと、現在の通信はそれぞれの通信システムごとに独立しています。それを完全に融合することが簡単にできます。
例えば次のようなことを簡単にできるようになります- デジカメで撮った集合写真を撮り、その場でメールアドレスの交換をしてクラウドにアップ(メーラーを起動する必要ない)するだけで、欲しい人にE-MAILで届けられる
- ファイルをクラウドにアップするだけで、好きな通信システム(Eメール、郵便、Facebook等どれでも)を使って任意の人にデータを配信する
- 岡山でワンプッシュスキャンした手紙が、東京の孫のプリンターから【直接】印刷されて出てくる。
- 電話番号だけ知っていれば、荷物を郵便で届けられる(災害で携帯を失った人に荷物を届けられる)。
- デジカメでとったビデオをワンプッシュでアップすると、任意の複数の人にCDに焼かれたものが郵送される。
- チラシ広告やカタログに、手書きで注文しますと書いてスマホで写真をとれば、ワンプッシュでその注文が広告主にメールで届く。
- テレビやラジオの広告放送を録音し、クラウドにアップするだけで、その広告主に注文が届く。
- クレジットカードにサインしてその画像を一か所にアップするだけで、任意のクレジット会社で決済が終わる
近年,写真や文書ファイルといったコンテンツを特定のクラウドにアップすることが容易になっていますが,クラウドを超えて,任意の通信システム(E-MAIL,郵便)を利用して,任意のアドレス(メールアドレス,IPアドレス,住所)へコンテンツを“送信”することはできません。これは,異種通信システムをつなぐ(融合する)ことが困難なことをあらわしています。それに対して本研究は,異種通信システムを融合する新たな通信原理を教育分野に導入し,子どもがワンプッシュスキャンしたドリル用紙の画像データを,一か所のクラウドサーバにアップするのみで,そのデータを個別に記録し,さらにその解析結果を,電子メールで特定のアドレスへ送信したり,郵送できるシステムを構築しています。この通信原理によれば,既存の通信システムに変更を加えることなく,ハードに依存しない全く新しい通信サービスを実現できる。例えば,カタログ販売などで高齢者などが手書きで注文を書き込んだ印刷文書をスキャン,もしくはスマートフォンで写真撮影したものを,特定のクラウド(1か所)にアップするのみで,その画像ファイルが特定の企業などに自動送信されるサービスなどが原理的に実現できる(毎回のアドレス入力も不要)。この通信原理の応用の可能性は非常に大きい。
[戻る]勘や技、創造的思考のメカニズム
技、勘、創造的思考、直感的思考のメカニズムを科学的に説明する理論です。
深い思考・浅い思考の違い、体験的学習の重要性、勘といわれる判断の科学的根拠、言葉とはなんであるのかを、最新の記憶理論をベースに論理的にきれいに説明し、シミュレーションでそれを検証しています。
- ★詳細情報★:感覚から創り出される“ことば”と思考
- 関連情報:技と伝統の継承のメカニズムのワークショップを後楽園で開催
- イベントポスター
- 関連情報:文化が醸し出す思考(イベント資料)
- 関連情報:知られざる感覚の世界:崇高な思考に不可欠なもの(イベント資料)
記憶ベースのパターン認識モデルの構築(記憶・認知の理論研究)
人間の行動データから推測される記憶理論を、人間のパターン認知に応用したシステムの開発を行っている。ニューラルネットとも異なる、シンボルを仮定しない、新しい人工知能の開発につながると考えている。現在の人工知能研究の多くは、個体内にシンボルやルールを保持していることを前提としている。しかし、そのシンボルやルールはどのように形成されていくのかという点を説明できる理論は限られている。それに対して、この理論は、個人に入力される膨大な非シンボリックなデータの蓄積のみで記憶表象は構築されているという理論に基づき、そのような情報のみから人間のシンボリックな認知処理を実現できることをシミュレーションによって証明している。ロボットの場合、ルールやシンボルを研究者があらかじめプログラミングしておく必要はないともいえる。
例えば、下でダウンロード可能になっているシミュレーションシステムを試してみてください。非シンボリックなデータの例として手書き文字(ドットパターン)をコンピュータに多数書き入れ、蓄積する。その状態で、新たな手書き文字を分析情報として入力すると、入力される手書き文字と蓄えられている多数の手書き文字のみから、活字と呼べるシンボリックなドットパターンが生成されるシミュレーション結果が得られている。活字はもちろん、活字を生成するルールなどは一切システムには組み入れられていないにもかかわらず、活字と呼びたくなるドットパターンが、非常に単純なアルゴリズム(UMEモデル)で生成できることが明らかになっている。UMEについては、Terasawa(2005)でその原理が導き出される論理が紹介されている。また、このモデルと従来の認知モデル(ニューラルネットやプロダクションシステムなどの人工知能)との違いについては、寺澤(2005)で分かりやすく紹介している。
UMEの具体的なシミュレーション結果の例を下図に示した。まず、図の下のほうに並んでいるように、手書きの数字を画像データとしてたくさん入れておく。そこに、左上の赤丸で囲まれている、3のような手書きの画像(input)を入力刺激として入れる。蓄えられているのは、この2種類の手書きの文字(画像)だけである。この画像データと、UMEの単純な計算処理だけで、図の真ん中にある活字の3のような画像(echo)が生成できる。活字のような3であるが、このシステムには活字は一切蓄えられておらず、画像以外の情報は蓄えられておらず、活字を生成するような工夫も入れてない(かなり不思議な感覚が得られる)。また、echoにある3の合成には、下にある手書き画像(長期記憶)の中で枠が黒っぽくなっている画像が全て関与している。
UMEのシミュレーション結果のサンプル
この、UMEのシミュレーションは、活字というルールが、過去の経験から入力される非シンボリックな画像情報のみから生成できることを意味している。必要なものは非シンボリックな情報とごく単純なUME処理のアルゴリズムだけである。人間の行動データに基づく、かなり苦労した推論の結果導き出した処理原理であり、処理は3つ4つの数式で表現される単純なアルゴリズムでなされる。そのアルゴリズムに、経験として入力された多数の手書き文字(の画像)と、処理が求められる手書き文字(画像)を入れるだけで、なぜか、シンボリックな活字のような画像が生成される不思議な結果を手にすることができる。具体的な処理の流れや出力結果は、寺澤(2005:理論からの心理学入門 培風館、3章)や寺澤(2008:記憶の心理学放送大学振興会、4章)などで紹介を始めている。
UMEは非シンボリックな情報をベースとした認識モデルである。したがって、手書き数字と同様、非シンボリックな画像データのみで、道路のどこを人間が通るのか、その道筋を生成することも可能である。具体的な説明は こちら を参照してほしい。
さらに言えば、UMEの原理は、パターン認識(生成)だけでなく、自然言語処理などにも適用が可能と考えており、そのあたりの応用を東芝の研究開発センターにいらした木治さんと続けていくことにしている。この処理原理は、個人的にはとても大切な原理の一つで、マイクロステップ技術以上に大切な理論の一つである。特許にはしているが、学術論文には一切書いていない。その理由を話すのは、結構つらいことである。
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fMRIによる脳研究からMANのニューロ原理
fMRIのデータを手がかりに、脳における記憶メカニズムの理論化を行っていた。最近は、一歩ひいて上記の研究に集中しています。脳のメカニズムに関しては、MANと呼んでいる、独自のニューロ原理を構築しています(何よりも重要な理論です)。詳細はマイクロステップの研究が落ち着いてからアピールしていきます。
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