STEP Global Summit 2025 (India, Delhi) で「岡山県ユネスコスクール高校ネットワーク」の取り組み発表
概要
STEP Global Summit 2025 – Sustainable Thinking for Earth’s Progress
日程: 2025年11月7日(木)~8日(金)
会場: Netaji Subhas University of Technology (NSUT), Delhi, India(ハイブリッド開催)
主催: Save Vibrant Earth Foundation
テーマ: Circular Futures: Innovation for People, Planet & Prosperity
発表内容
パネルセッション「Pedagogies of Sustainability(持続可能性のための教育法)」に登壇し、岡山県ユネスコスクール高校ネットワークの取り組みを紹介。
発表タイトル:
“Co-Creation of Multiple Learning Platforms for ESD: An Experiment in Building Communities of Practice”
本発表では、柴川が博士論文研究で提起した「ESDに求められる変容的学習は、実践共同体への正統的周辺参加の過程に立ち現れる」という仮説に基づき、2015年から約10年にわたり展開してきた岡山ユネスコスクール高校ネットワークの実践を紹介。
主要な論点
- 理論的背景
Lave & Wengerの実践共同体理論(Communities of Practice)における正統的周辺参加(Legitimate Peripheral Participation)の概念を基盤に、ESD実践共同体を意図的に形成するための教育学的デザインを提示。 - 多元的学習プラットフォームの構造
- 岡山県内11のユネスコスクール加盟高校が参加
- 各校が地域固有の課題(中山間地域・都市部・沿岸部など)に取り組む
- 高校生・大学生スタッフ(教職課程生)・現職教員が協働
- 年間を通じた共通テーマ設定とニュースレター共有による継続的な学び
- 教育学的デザイン原理
- 本物の参加(Authentic participation): 模擬ではなく実際の地域課題に取り組む
- 足場かけされた関与(Scaffolded engagement): 観察→参加→リーダーシップへの段階的移行
- 水平的学習(Horizontal learning): 学校間のピアラーニング
- 持続的関与(Sustained engagement): 単発イベントではなく年間を通じた活動
- 教育的成果
- 生徒のアイデンティティ変容(「学習者」から「ESD実践者」へ)
- 教員の専門性向上(初任教員がベテラン教員と協働設計する、同様の実践を通じて交流することによる学び)
- 卒業後も70%以上が継続的にESD活動に関与
- 卒業生が大学生スタッフとして帰還する世代間学習サイクル
- 持続可能性のための教育法への示唆
意図的に設計された実践共同体は、多様な文脈・世代を超えた正統的周辺参加を促進することで、変容的学習を可能にするのではないか。効果的なサステナビリティ教育は、知識伝達ではなく「学習者が実践者へと段階的に移行する参加構造」のデザインにある。
国際的意義
サミットには、世界各国から学術研究者、実務家、政策担当者が参加し、持続可能な開発のための革新的な教育実践が共有された。岡山の取り組みは、RCE(Regional Centre of Expertise on ESD)の国際ネットワークにおけるグッドプラクティスとして位置づけられ、インドをはじめとする各国のRCEとの今後の連携可能性についても議論された。
一方、他の発表者からはサステナビリティが一体何を意味しているのかが未だ明確ではない中、PBL等を通してSDGsの推進活動・児童生徒に目的が強要されることの弊害や懸念も提案されており、興味深い議論が展開されていた。
このような議論に対し、本発表ではBottom-upでの地道な取り組みと、多元的で集合的、かつ長期的な学びが結果として本質的な変容をもたらすことの価値を提案する形となった。
今後の展開
本発表を通じて、持続可能性のための教育アプローチにおける「実践共同体の意図的形成」という視点が共有された。今後、インドや他のアジア諸国のRCEとの協働研究や教員交流プログラムの可能性について、具体的な議論を進めていく予定である。


